リアルの逆襲 コロナ後の店舗、広告 第6回

RaaS(リテール・アズ・ア・サービス、小売りのサービス化)を通じてマーケティング支援を行うメグダイ(東京・渋谷)が運営するのは“異色の店”だ。「試食専門店」と銘打ち、食品や飲料を「試す」体験を前面に打ち出した販売スタイルを採る。充実した試食体験を提供した結果、試食した人の実に3割が購買に至るという。そんな試食専門店の裏側には、来店客、出店者、メグダイが三方よしでメリットを得られる緻密な戦略がある。

メグダイは東京・代官山に「試食専門店」を構える
メグダイは東京・代官山に「試食専門店」を構える

「試食専門店」とは一体何者か

 東京・代官山駅から徒歩8分。駅から離れ人通りが少なくなってくる静かな通りに、その店はある。その名も「試食専門店」。店前に置かれた看板には、「全て無料で試食ができるお店」という説明が書かれている。

 ガラスのドアからは、全国の地方メーカーが提供する様々な食品・飲料が一堂に会する様子が見えて、興味が引かれる。実際に取材に訪れた日の店前では、自転車に乗った高齢の主婦2人組が「試食できるんだって、気になるわね」と、足を止めて中の様子をうかがっていた。

 試食専門店は2021年12月1日、代官山にオープンした。RaaSによるマーケティング支援のメグダイが手掛ける。オープンから2年がたとうとしている中、客足は好調が続く。「土曜日・日曜日は入場規制をすることもあるくらいの盛況ぶり」と、メグダイ取締役の杉浦博之氏は自信をのぞかせる。

 試食専門店の仕組みはこうだ。来店客は入店後、気になる商品が見つかれば、その商品の前に置かれた「試食カード」を手に取る。それを店内のスタッフに渡すと、スタッフから試食分を乗せたトレーを渡され、その場で飲食することができる。基本的に試食できる商品の種類に制限はないが、同じ商品の試食は1回まで。店内には「試食スペース」があり、椅子に座ってゆっくりと商品を吟味できる。

試食カードをスタッフに渡すと、試食分を乗せたトレーを渡され、その場で飲食することができる
試食カードをスタッフに渡すと、試食分を乗せたトレーを渡され、その場で飲食することができる

 試食後には、性別や年代、味や価格の評価、自由記述などを紙のアンケートにまとめて回答する。必須ではないが、試食をした人のほぼ100%が回答してくれているという。

 試食した商品が気に入れば、もちろんその場で購入することもできる。試食カードをレジに持っていき、現物を手渡してもらうのが一つ。もう一つが、自分のスマートフォンなどで、試食カードに記載された2次元コード(QRコード)を読み取って当該商品を提供するメーカーやメグダイのECサイトに飛び、そこから購入するというものだ。この一連の過程で1人当たりの店頭滞在時間は10~15分ほどとなる。

試食専門店がかなえる顧客体験、試食者の3割が購入のワケ

 そもそも、一体なぜ、このような店舗を思いついたのか。「食べ物は実際に食べてみないと(口に合うのか)分からない。現状では、パッケージの裏に書かれた成分表示くらいしか商品の詳細を知る手立てがない。だからこそ、試食という体験が最大の広告になる」と、杉浦氏は説明する。

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